NPO法人 雨漏り診断士協会
 

雨漏り診断士の役務と関連用語(2024年度版 )

【1】雨漏り診断士の責務
建物の施工技術や材料の進化、築年数等にかかわらず、雨漏りは多発しています。
NPO法人雨漏り診断士協会は、設立以来「適正な診断なくして雨漏り解決なし」という観点のもと、長年にわたり雨漏り診断の実務について研究を重ねてまいりました。
その結果、繰り返される雨漏り、関連するトラブルの多くは「雨漏り診断の軽視」に起因するものと論結しています。
「雨漏り診断」において、依頼者との相互理解に差異や疑問が生じる場合があり、その説明責任は雨漏り診断士に帰属します。根拠ある明確な説明によって、雨漏り診断について理解を得ることに努めなければなりません。

 

【2】雨漏り診断のステップ
NPO法人雨漏り診断士協会では、雨漏り診断を以下の通り分類しています。
事前調査の位置づけとしての『予備診断』、その後3段階の本診断として『1次雨漏り診断』『2次雨漏り診断』『3次雨漏り診断』の企画立案を行い、原則として順次実施することを推奨しています。

1.予備診断
予備診断は、「建物の目視と依頼者からのヒアリング」で得た情報から、建物の概要と雨漏りの状況を把握し、雨漏り原因究明に向けて、『1次雨漏り診断』『2次雨漏り診断』『3次雨漏り診断』の方針を検討し、依頼者に提案する目的で行うものです。

2.1次雨漏り診断(非破壊・目視、触診)
現状に手を加えることなく、非破壊かつ目視・触診によって雨水浸入位置を推察するもので、この段階では原因と結果を必ずしも明確に結びつけるものではありません。2次雨漏り診断の計画や方針検討のために、あらゆる情報・知識を集約し、雨水浸入から浸出に至る「仮説立て」を推し進める診断です。

3.2次雨漏り診断(非破壊・散水調査)
1次雨漏り診断で得た多くの仮説を実証するために、最も有効な手法が散水調査による雨漏りの再現です。
実際の雨漏りと同じ状況を再現することで、原因と結果を明確に結びつける唯一の雨漏り診断手法といえます。
また、雨漏り診断の結果を受けて修理が実施された後に、雨漏り診断時と同条件の止水確認散水を行うことで、当該部位の雨水浸入が遮断されたことを立証します。それによって、同建物に更なる雨漏りが発生した場合に、同部位からの「雨漏り再発」ではなく、「新たな雨漏り」であることが明確となります。 尚、NPO法人雨漏り診断士協会では、散水調査による原因究明の蓄積データから、雨水浸入位置と予測した部位一か所あたりの基本散水時間を、木造90分・S造90分・RC造120分と規定しています。

4.3次雨漏り診断(破壊・直視)
2次雨漏り診断で雨漏りの再現がなされたことで、雨水浸入位置から雨水浸出位置に至るまで、浸水経路の推定が可能となります。
雨漏り診断士は2次雨漏り診断の結果によって、外皮に隠れた雨水浸水経路を推定する能力を携える必要があります。
しかしながら、外皮となる仕上げ材(モルタル塗り、サイディング貼り等)と、外皮の内側で雨水浸入を抑える防水シート(アスファルトルーフィング、アスファルトフェルト、透湿防水シート等)で構成される木造建物、あるいは躯体に外皮となる仕上げ材(タイル、石貼り、金属パネル等)を施している鉄筋コンクリート、鉄骨造建物においては、雨水浸入位置を特定した場合においても、外皮の内側に隠れている雨水浸水経路については、推定にとどまります。
最終的に外皮を取り除き内側の状態を直視することによって、雨水浸水経路の特定が可能となる場合もあります。
2次雨漏り診断の結果をふまえて、3次雨漏り診断へと移行するには、その判断に至る経緯を明確にし、雨漏り診断依頼者の理解を得ることが重要です。

 
【3】雨漏り関連用語の定義
雨漏り関連用語を定義する目的は、雨漏り診断士と診断依頼者双方に通じる共通の言葉を用いることで、雨漏りのメカニズムについて互いに理解し信頼を深めることです。
<基礎用語>
1.「雨漏り」とは
施工の意図に反し、建物内部に雨水が浸入 (図1) すること。
※室内では認識していなくとも、建物内部に雨水が浸入している時点で「雨漏り」

2.「雨漏り具象(あまもりぐしょう)」とは
雨水浸入が推察され、建物内で雨水の経路、含水、浸出等が現認可能(図2) となる状態のこと。 室内において、雨水の浸出を具体的な現象として認識できる状況を「雨漏り具象」

3.「雨漏り診断」とは
多様な調査方法(1次・2次・3次雨漏り診断)により、雨漏りの原因を特定すること。

4.「雨水浸入位置」とは
雨水が建物外部の仕上げ層より内部に浸入するところ。

5.「雨水浸出位置」とは
浸入した雨水が建物内部の仕上げ層表面より浸出するところ。

 

<雨漏り分類用語>

1.「単一(たんいつ)雨漏り」
原因となる雨水浸入位置が1箇所であり、雨水浸出位置が1箇所の雨漏りのこと。

2.「複数浸入雨漏り」
原因となる雨水浸入位置が複数箇所であり、雨水浸出位置が1箇所の雨漏りのこと。

3.「複数浸出雨漏り」
原因となる雨水浸入位置が1箇所であり、雨水浸出位置が複数箇所の雨漏りのこと。

4.「創発(そうはつ)雨漏り」
各要因の複雑な相互作用により、問題のある部位ごとの性質にとどまらない状態にある雨漏
りのこと。

 

<雨漏りメカニズム用語>

1.「浸水経路図」
定められた図式を用い、浸水経路を簡略的に表記した図解のこと。

2.「浸水経路式」
定められた記号を用い、浸水経路を簡略的に表記した文字列のこと。

3.「浸水経路」
雨水の浸入から浸出までの通過経路のこと。

4.「浸水誘路」雨水などの潜在的な経路。浸水量の増加などに伴い、新たに雨水などの経路となる可能性が高いと推察できる導線のこと

 

<雨漏り分類とメカニズムの組み合わせ例>

用語:「単一雨漏り」(図3)
定義:原因となる雨水浸入位置が1箇所であり、雨水浸出位置が1箇所の雨漏りのこと。
各位置:雨水浸入位置a →雨水浸出位置b            
浸水経路式:a>AL>b
(呼称: aアロング(along)b *アロングは「浸水経路」を示す。
事例:雨水浸入位置が棟→雨水浸出位置が2階洋間天井(浸水経路は、後に天井内にて現認)

用語:「複数浸入雨漏り」
定義:原因となる雨水浸入位置が複数箇所であり、雨水浸出位置が1箇所の雨漏りのこと。
各位置:雨水浸入位置a・雨水浸入位置b→雨水浸出位置c
浸水経路式: a・b>AL>c

用語:「複数浸出雨漏り」
定義:原因となる雨水浸入位置が1箇所であり、雨水浸出位置が複数箇所の雨漏りのこと。
各位置:雨水浸入位置a→雨水浸出位置b・雨水浸出位置c
浸水経路式:a>AL>b・c

用語:「創発雨漏り」
定義:各要因の複雑な相互作用により、問題のある部位ごとの性質にとどまらない状態にある雨漏りのこと。
各位置:雨水浸入位置a・雨水浸入位置b→雨水浸出位置c・雨水浸出位置d・雨水浸入位置e
浸水経路式:a・b>AL>c・d・e
<補足>建物内外の気圧差による吸引、降雨時の結露との混同、設計値を超越する荒天、給排水設備漏水の併発等。

 

以上、雨漏り関連用語を併用した4種類の雨漏り分類の説明は、予備診断や雨漏り重要事項説明の段階でとても重要な役割を果たします。
「雨漏り」という言葉でひとくくりにされている事象を、より明確に整理分類し、依頼者と雨漏り診断士双方の共通認識とすることが、雨漏り解決への第一歩となります。

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